相続税の節税対策をする方法の中で特に取り組みやすいのは「生前贈与」でしょう。亡くなる前に財産を渡すことで、相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。こちらのページでは生前贈与のメリットとデメリット、贈与税と相続税の計算方法についても解説しております。
生前贈与とは、自分が生きている間に自分の財産を親族等へ贈ることを言います。また相続とは、自分が被相続人となってから自分の財産を親族等へ引き継ぐことを言います。
両者の大きな違いは「自分が生きている間に財産を贈るか、それとも自分が亡くなってから財産を贈るか」という点にありますが、もう1つ大きな違いがあります。それが、節税効果です。個別の状況にもよりますが、生前贈与を選択することで節税効果を得られることがあります。
生前贈与では、一定の条件を満たした場合に、非課税となったり減税されたりする特例があります。もし非課税・減税が適用されながら自分の財産を親族等へ贈ることができれば、将来相続が発生した際に、相続財産が減った分だけ相続税も圧縮できます。結果、生前贈与と相続のダブルで税金の総額を減らすことができるという理屈です。
生前贈与の方法には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。
暦年贈与とは、生前贈与を毎年行う方法です。
生前贈与制度には、1年に110万円までの贈与を条件に、贈与税を申告しなくても良いとする特例があります。この特例を利用し、毎年110万円を上限に非課税のまま生前贈与を行い、少しずつ将来の相続財産を減らしていくという方法です。相続財産が減れば、将来納める相続税の税額も減ります。
相続税の節税対策としてはよく知られた方法で、暦年贈与を行っている方は少なくありません。
相続時精算課税制度とは、一定の条件のもと、合計2500万円を上限に贈与税がかからず生前贈与できる制度です。60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫に生前贈与をする際、相続時精算課税制度が利用できます。
相続時精算課税制度によって生前贈与された財産については、贈与者が亡くなった際に、贈与時の評価額と相続財産を合算した金額をもとに相続税額として計算。計算の結果、相続時精算課税制度を利用しなかった場合に比べ、相続税額を減らせることがあります。
暦年贈与制度を利用して生前贈与を行えば、年間110万円を上限に非課税で贈与が可能となります。
仮に年間100万円を10年間にわたって贈与すれば、非課税のまま合計1000万円の財産を親族等へ贈与できることになります。また、将来発生する予定の相続財産は1000万円分だけ減ることにもなるため、相続税の節税効果にもつながります。
なお相続税は相続人の相続分が一定金額を超えることで課税されますが、暦年贈与によって相続財産を一定金額以下に減らしておけば、贈与税と相続税の両方が非課税となる可能性もあります。
不動産などのように、価格が変動する財産をお持ちの場合、将来の相続時点での時価が分かりません。所有する不動産の近隣が開発地域となれば、現在の評価額の数倍になることもあるでしょう。
将来の値上がりが予想される財産を相続時精算課税制度で贈与しておけば、仮に将来値上がりしたとしても、相続税の算定基準額は贈与時の評価額。値上がりした分は算定基準に加算されないため、その分だけ相続税を抑えられる可能性があります。
夫婦間での生前贈与には、最大2000万円の配偶者控除枠があります。「おしどり贈与」とも言われる贈与税の特例です。この特例を利用すれば、たとえば夫名義の2000万円の不動産を妻へ非課税のまま贈与することも可能です。
ただし「おしどり贈与」を適用するためには、次のような要件を満たす必要があります。
贈与する財産が現金であれば、そのまま暦年贈与制度を利用できますが、もし贈与する財産が不動産であれば、評価額110万円を上限に暦年贈与することは困難です。そのような場合には、事前に不動産を売却して現金化すれば、毎年110万円を上限とした暦年贈与が可能となります。
なお、暦年贈与の上限額は年間110万円ですが、あらかじめ贈与する総額が決まっている中で毎年分割して贈与した場合、税務署から「定期贈与」と認定されて贈与税の対象になることがあります。贈与税を非課税とする暦年贈与を行う場合には、あらかじめ贈与総額を決めないことがポイントです。
上述の通り、生前の暦年贈与は定期贈与とみなされて贈与税が課税されるリスクもある点にご注意ください。
たとえば、贈与する財産の総額が決まっておらず、毎年贈与者の判断で異なる金額を贈与した場合には、年間110万円を上限に贈与税がかかりません。
一方、たとえば贈与する財産の総額を1000万円と決め、毎年100万円を10年に分けて贈与すると取り決めた場合には、税務署から「1000万円の定期金を得る権利を一括で贈与した」と判断されて贈与税が課税されます。
結果として毎年110万円の定額を贈与することは問題ありませんが、初めから毎年110万円の定額を贈与すると取り決めることは、定期金の権利に該当する恐れがあるので注意が必要です。
非課税枠を利用して多くの財産を贈与した結果、贈与者の生活を圧迫してしまうリスクがあります。節税効果に注目するあまり、自分の生活が苦しくならないよう注意しなければなりません。
生前贈与された財産のうち、贈与者が死亡する前の3年以内に贈られた財産については、贈与財産ではなく相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。この制度を、生前贈与加算と言います。
令和6年1月1日以降は、生前贈与加算制度の「3年以内」が「7年以内」に延長。「3年超7年以内」に該当する場合には100万円の控除が認められる形となります。
基礎控除とは、税金の算出基準に含まれない非課税枠を言います。たとえば基礎控除額が100万円の場合、税金の算出基準から100万円分が差し引かれるため、その分だけ税金が安くなります。
贈与で財産を受け取ったときの基礎控除は110万円。贈与税の非課税枠の特例と説明されることもありますが、厳密に言えば贈与税の基礎控除枠が110万円ということになります。
贈与税の基礎控除を利用した場合、たとえば年間の贈与額が200万円であれば、贈与税の算出基準は差額の90万円のみとなります。あるいは、年間の贈与額が100万円であれば、贈与税の基礎控除枠である110万円以内となることから、贈与税の納付も申告も不要となります。
基礎控除は1月1日から12月31日までに贈与された財産を対象に、年に1回適用することができます。
贈与税の税額は、贈与税の課税対象となる金額に所定の税率を乗じ、そこから控除額を差し引いて算出します。
この計算式のうち、「税率」と「控除額」は課税対象となる贈与金額により変動します。課税対象となる贈与金額に応じた税率と控除額は、以下の2種類の速算表でご確認ください。
なお、速算表で登場する「直系尊属」とは、親や祖父母などの直系親族を指しています。
贈与税の課税対象となる金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | - |
200万円超~400万円以下 | 0.15 | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 0.2 | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 0.3 | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 0.4 | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 0.45 | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 0.5 | 415万円 |
4,500万円超 | 0.55 | 640万円 |
贈与税の課税対象となる金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | - |
200万円超~300万円以下 | 0.15 | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 0.2 | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 0.3 | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 0.4 | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 0.45 | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 0.5 | 250万円 |
3,000万円超 | 0.55 | 400万円 |
贈与税の課税対象となる金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 0.1 | - |
1,000万円超~3,000万円以下 | 0.15 | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 0.2 | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 0.3 | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 0.4 | 1,700万円 |
2億円超~3億万円以下 | 0.45 | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 0.5 | 4,200万円 |
6億円超 | 0.55 | 7,200万円 |
相続税の速算表を見て分かる通り、単純に税率のみを比較すれば、相続税率よりも贈与税率のほうが高く設定されています。
暦年贈与などをうまく利用すれば生前贈与の節税効果は生まれますが、個別の状況により、贈与ではなく相続を選んだほうが税額を低く抑えられることもある点は注意が必要です。
有効な相続税対策を行える生前贈与ですが、ケースによっては、逆に税金が高くなってしまうこともあります。そのため、生前贈与を考えるならまずは相続税対策に強い税理士に相談することが重要です。税理士と一緒に生前贈与の目的を再確認し、適切な計画を立てましょう。
生前贈与は、一方的にできるものではありません。贈与を受ける「受贈者」と協議し、きちんと合意を得ることが必要です。贈与の目的物と、贈与の時期、さらに贈与の方法について、受贈者と話し合って決めましょう。
協議が済んだら、その内容を贈与契約書にまとめましょう。贈与契約書の作成により、「合意内容が明確となりトラブルを予防できる」「撤回できなくなる」「税務調査の際、暦年贈与を証明する手段となる」といったメリットが得られます。
いよいよ、財産の引き渡しや移転登記で贈与を実行します。
金銭贈与の場合、トラブルを避けるためにも、税務署から使途不明金を疑われないためにも、手渡しではなく振り込みが良いでしょう。不動産の場合は、速やかに所有権の移転登記を行います。
贈与の額が年間で110万円を超える場合には、基本的に贈与税の申告・納付が必要となります。速やかに済ませましょう。
財産を親族等に引き継ぐ主な方法として、生前贈与と相続があります。
節税の観点から見れば、暦年贈与や相続時精算課税制度を利用すれば、生前贈与のほうがお得になることもあります。あるいは、単純に税率の観点から見れば、相続のほうがお得になります。
また、財産の引き継ぎにおいて相続人同士の揉めごとが想定される場合には、生前贈与で特定の相続人に財産を引き継いでおいたほうが良いでしょう。逆に、相続人同士の揉めごとが想定されず、かつ引き継ぐ財産が多くない場合には、相続のほうが良いかもしれません。
どちらが良いかの判断が難しい場合には、税理士などの専門家へ相談するようおすすめします。
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